被害妄想おばさん

深夜のネットカフェでバイトしていた頃、被害妄想がひどい50代のおばさんが毎日のように客として来ていた

おそらく日雇い労働をしていて、帰る家もないんだろう。夜になると大きなバッグを持ってやって来て、朝早く出ていく

そのおばさんは被害妄想がひどく、よく「女子トイレに男が入ってきた」だの「誰かが部屋のものを勝手に動かした」だの騒いでは私たちスタッフを困らすので、鬱陶しくてたまらなかった

でも同時に、そのおばさんを見てると不安になった

わたしも将来こういう人間になるんじゃないかって

自分と近いニオイを感じたのかもしれん

そのおばさんが精神疾患を患ってるのはほぼ間違いない。日雇い労働でネカフェ生活なんかしたら、ストレスで心が壊れるに決まっている

わたしは転職をくり返し、30歳過ぎても定職につけず生活費が足りなくなり100万以上借金したあげく、毎月5万ずつ返済しないといけないので高時給の深夜バイトをせざる負えなかった

そのとき借りてた部屋は家賃5万の古い木造の一階で、上からの騒音がひどかった

じわじわと精神が削られていく自覚があった

だから被害妄想おばさんを見ると、「ああ私も将来こうなるのか」と想像せずにはいられなかった

そして40歳目前になった今、幸運にも静かで安い部屋に引っ越すことができた

ただ仕事のストレスで、軽い鬱状態が2年半ほど続いている

いつもならとっくに辞めているのに、ここを辞めたらもう働ける場所がないから辞められない

いまの仕事は接客もなくスピードも求められず、穏やかな人が多いとても恵まれた職場だと思う

でも私は嫌われていると思う

何かされたわけではないのにそう確信してしまう

子どもの頃からのクセみたいなもんだ

そう、わたしは子どものときから被害妄想が強かった

でも大半のことは妄想じゃないと思ってる

実際に嫌われてたと思う

いろんな人に

学校でクラス中の目が怖かった

すれ違う人の目が怖かった

「なんだコイツ」という軽蔑の目で見られているとしか思えなかった

上京して転職2回失敗して無職になったとき、日中に外を歩けないくらい人の目線が怖かった

夜に歩いても、すれ違う人が怖くてたまらなかった

ストレスが一定量を超えると、被害妄想がひどくなるのかもしれん

ずっと同じ職場で働くのは苦痛だ

人間関係をリセットしたい

できれば人と関わりたくない

嫌われるから

人がキライなんじゃなくて、人に嫌われるのが怖くてたまらないんだろうな

なんとか一人で仕事ができないかと色んな副業に手を出しているが、すでに何度も心が折れている

きっとわたしは、本当にやさしい人のことも敵に見えて、独りになって、お金も家もなくなって、あのおばさんのように日雇い労働でネカフェ生活になって、人から「被害妄想おばさん」と呼ばれるようになるんだろう